商品紹介
野中宗助とその妻・御米は、崖の下の家にひっそりと暮らす睦まじい夫婦。
宗助は京都の大学を出て、今は東京で役所勤めをしているが、弟の小六に馬 鹿にされるほど出世欲もなく、弟の学資となるはずだった亡父の遺産を親戚に食い尽くされても強く抗議することもなく、波風の立たない日常をそっと守るよう に暮らしているのも、過去に犯した事件の影にいまだ怯えているためでもあった。
懇意にしていた大家の坂井宅で、その影が現れるかもしれない事態が出来(しゅったい)したとき、宗助は救いを求めて鎌倉へ向かうが、そこに救いはなかった。——
「三四郎」「それから」に続く漱石前期三部作の最後を飾る長編。執筆中に胃潰瘍が悪化し、連載終了後に入院することとなった。
【朗読者について】
漱石前期三部作に挑戦中の渡部龍朗。ドラマチックな展開をみせた「それから」からさらに深化し、事件らしい事件のない難しい長編作品を、淡々とじっくりと聞かせます。
Wikipedia
作品 門
著者 夏目漱石
朗読者 渡部龍朗
ライターズレビュー
「世間から白眼視されることになったこの夫婦の苦悩の日々を描いた作品。」
「理想的な夫婦愛を描いた作品。」
どちらの読み方もできる。
どちらに感じたかで、そのひとの、家庭や社会的立場への欲求がわかりそうだ。
『三四郎』『それから』『門』は漱石前期三部作といわれる。が、たとえば『それから』の代助ならこのような生き方ができただろうか。ヤマアラシのような男だったが、頭が焼け尽き、青竹を炙って油を絞るほどの苦しみを経ると、宗助のような静けさをもつようになるのだろうか?
“夫婦は世の中の日の目を見ないものが、寒さに堪えかねて、抱き合って暖を取る様な具合に、御互同志を頼りとして暮らしていた。苦しい時には、御米が何時でも、宗助に、「でも仕方がないわ」と云った。宗助は御米に、「まあ我慢するさ」と云った。”
しかしどんなにひっそりと生きていても、事件はおきるし、悩みの種はつきない。が、諦観の池の中でたゆたうように生きる宗助に、池から跳ね出るほどの衝撃をあたえたのは、ただひとつ・・・
そして、動揺した宗助は、仏道に救いをもとめる。
“山門を入ると、左右には大きな杉があって、高く空を遮っているために、路が急に暗くなった。その陰気な空気に触れた時、宗助は世の中と寺の中との区別を急に覚った。静かな境内の入口に立った彼は、始めて風邪を意識する場合に似た一種の悪寒を催した。”
仏道への傾倒は唐突な印象だが、それだけ宗助のうけた衝撃が大きさがうかがえる。まあ野暮なことを言えば、漱石の体調不良により終結をいそぐ必要もあったようだが、逆に言えば、まさに「運命」が宗助を禅寺に導いたともいえる。
――しかし、宗助はなにを得ることもなく禅寺の門をでることとなる。
“宜道は気が散るようでは駄目だと云った。だんだん集注して凝り固まって、しまいに鉄の棒のようにならなくては駄目だと云った。そう云う事を聞けば聞くほど、実際にそうなるのが、困難になった。(中略)「すでに頭の中に、そうしようと云う下心があるからいけないのです」と宜道がまた云って聞かした。“
ゴータマ・シッダールタは人として類をみない人間だっただろう。それほどのひとが七転八倒し、命を削るようにしてかち得たらしい「悟り」が、一週間ほど仕事を休んで寺に入ったところでそうそう手に入るわけもない。
“自分は門を開けて貰いに来た。けれども門番は扉の向側にいて、敲いてもついに顔さえ出してくれなかった。ただ、「敲いても駄目だ。独りで開けて入れ」と云う声が聞えただけであった。”
開けてはもらえない。自分の力で開けて、独りきりで入ってゆかねばならない。――そうしてほぼすべての人間が、門の外を、絶えることない悩み苦しみと幸せのなかを、よろめきつつ歩いて行くのである。
“「本当にありがたいわね。ようやくの事春になって」と云って、晴れ晴れしい眉を張った。宗助は縁に出て長く延びた爪を剪りながら、「うん、しかしまたじき冬になるよ」と答えて、下を向いたまま鋏を動かしていた。“
またじき、冬が来る。――それでも、二人がおかした罪にに苦しみながらも、二人が出会ってしまったことを、夫婦ともに悔いてはいないように、わたしには思える
門の舞台
円覚寺 山門

英語教師であった夏目漱石が、北鎌倉にある円覚寺の塔頭のひとつ帰源院の門をたたいたのは明治27年のことだった。禅に精神のやすらぎを求めたからである。が、 漱石のこころは放たれることはなかったようだ。
15年後に書いた『門』に、そのときの漱石の心境はうかがえる。
「その陰気 な空気に触れた時、宗助は世の中と寺の中との区別を急にさとった。静かな境内の入り口に立った彼は、始めて風邪を意識する場合に似た一種の悪寒を催した」
リスナーズレビュー
居の高かった夏目漱石の名作が、身近になりました。流れは遅いですがじっくり楽しめました。(30代 男性)
読み手が、もうちょっと年のいった人ならなおよかったと思う。女性よりはあっているか?(70代 男性)
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